「日中戦争がよくわかる本」(PHP文庫)での浙贛作戦に関する記載

 中国に向かった爆撃機は大半が浙江省の飛行場をさがしだして着陸した。なかには日本軍につかまったパイロットもいた。
 日本軍は、こんな離れ業を二度と起こさせないように、浙江省内の飛行場をつぶす作戦をおこなった。それが浙贛作戦である。浙は浙江省、贛は江西省の別称だ。作戦地域が両省にまたがったからこういう名前がつけられた。
 飛行場を完全に破壊しないと安心できないと考えたのか、支那派遣軍はこの作戦のために一四万五〇〇〇人以上を投入した。破壊すべき飛行場まで到達するのが一苦労であり、飛行場についたらどうやって破壊するかで一苦労だった。五月十四日から始まって九月三十日までかかったというから大変な破壊活動である。おもな飛行場は衢州や玉山(ともに浙贛線沿線)、麗水(浙贛線から離れており温州から北西約八〇キロ)であり、飛行場破壊にともなって浙江省内の主要鉄道も破壊した。
 飛行場の破壊といえば、滑走路に爆弾を落として使えなくすればいいのではないかと思うが、それではすぐ修復される。そのたびに爆撃する余裕はないから、修復がほとんど不可能なように破壊したのである。
 その方法は、「飛行場を中心とする半径一・五キロ周辺地域の飛行場施設、利敵民家、樹木、橋梁はほとんど破壊」するとか、「廣信、廣豊付近から金華地区に至る間の主要交通網は、第一線兵団および軍工兵隊(衢州〜金華)により徹底的に破壊するとともに、(沿線の)民船約八〇〇隻を押収し、敵側の水陸輸送能力を撃滅」(防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 昭和一七、八年の支那派遣軍』朝雲新聞社)するというような破壊方法だった。鉄道の破壊によって押収したレールは約六万六〇〇〇本という。まことに徹底した破壊ぶりである。
(274〜276頁)