Wikipediaにおける山海関事件記述の嘘

Wikipediaの「塘沽協定*1」のページには山海関事件に関する項目がある。
1933年1月1日〜3日の第三次山海関事件の発端については、日本軍守備隊長落合甚九郎の陰謀説が有力である。そして、この事件により山海関城を完全に抑えた日本軍は、直後に始まる熱河侵攻作戦において山海関からの中国軍の反撃を意に介する必要がなくなった。さらに灤東作戦・関内作戦(中国側呼称・長城抗戦)の際には日本軍の出撃拠点の一つとなった。
山海関の戦略的な重要性は、欧米各国でも当然理解されており、日本軍による山海関占領を侵略の準備行動とみなす論調は少なからず存在した。
特にアメリカ、ドイツではその傾向は強かったとされる。一方、英仏ではそれほど日本批判は生じなかった。

Wikipediaでは「外国の信頼できる情報源の多くは日本側の報道を支持した」とあるが、これは日本軍の行動を正当化するのに都合のよい報道を集めたに過ぎない*2

Wikipedia記述の検証

日本軍の山海関南門攻略に関する報道は日本側と中国側で異なっていたが、外国の信頼できる情報源の多くは日本側の報道を支持した[21][22]。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%98%E6%B2%BD%E5%8D%94%E5%AE%9A#.E5.B1.B1.E6.B5.B7.E9.96.A2.E4.BA.8B.E4.BB.B6

参考文献となる[21][22]は、いずれも「North-China Daily News」*3である*4が、これは上海国際租界の英仏米の大商人たちによる御用新聞である。1930年代当時の中国ナショナリズムによる利権回収運動で中国側と対立する利害関係を持っており、山海関事件では日本側に偏った見解を出しているにすぎない。
なお、山海関事件に関しては、「サンフランシスコ・クロニクル」、「ポートランド・オレゴニアン」、「シカゴ・デイリーニュース」、「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」、「ワシントン・ポスト」、「ボルチモア・サン」、「ニューヨーク・アメリカン」、「ニューヨーク・ワールド・テレグラフ」、「ニューヨーク・イブニング・ポスト」(以上、アメリカ)、「ガーディアン」、「クロニクル」、「ヘラルド」(以上、イギリス)、「アルゲマイネ・ツァイツング」、「フルンクフルター・ツァイツング」、「フォルヴェルツ」(以上、ドイツ)が、日本側の侵略行為であると非難する論調を掲げている*5

山海関事件について当時のロンドン・タイムズは、日本は最終的に熱河省から無法者を追い払う意図を決して隠したことはないが、この事件を中国側の挑戦によるものとする日本側の主張は現場近くに日本の軍隊がいなかったという事実と戦闘が始まった時には第二師団が釜山から日本に向けて出航していた事実によって裏付けられるとし[23]、「中国側が西欧列強の支援を得るためのものではないか」と論じた[1]。同じく英国のデイリー・メール紙は事件は主に張学良によるもので彼は国際連盟が日本に対して実力を行使することを期待したのではないかと論じた[24]。中国側は日本軍による山海関占拠の合法性を認めなかった[25]が、ロンドン・タイムズは「1901年に調印された北京議定書に基いて占拠している日本軍に対して中国軍が攻撃的態度を取ったことは中国軍の責任であり、日本側が侵略されたとして防御するのは当然の権利」と説明している[1]。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%98%E6%B2%BD%E5%8D%94%E5%AE%9A#.E5.B1.B1.E6.B5.B7.E9.96.A2.E4.BA.8B.E4.BB.B6

[1][23][25]は1933年のロンドン・タイムズ、[24]は1933年のNorth-China Daily Newsである。ロンドン・タイムズは金融関係の利害に敏感で、日本を利用して満州国・日本・ソ連・中国による安定的な市場を望む傾向から書かれている。既に満州国が建国され、中国軍による武力での原状回復の可能性も低い状況では、とにかく中国側に現状に甘んじて日本と戦火を交えないことを望むという態度が強い。
日本の行動が日本も参加する国際機関の精神に反するのは理解しながら、日本側が自ら利権を手放すはずもなく中国側にはそれを奪い返す武力がないことを踏まえて、徒に戦火を長引かせて混乱状態が続くのは避けたいとの意図から日本に組する論調を展開したのがロンドン・タイムスであった。

*1:満州事変以降の日中紛争の停戦協定。

*2:そもそも当該項目で依拠している資料が1933年当時の日本の新聞や書籍がほとんどで、まさに当時の日本軍のプロパガンダでしかないものを検証もせずに利用しているのは呆れる他ない

*3:参照 http://d.hatena.ne.jp/MARC73/20101221/1292950234

*4:おそらく原典にあたったのではなく孫引きだろうが。

*5:アジア歴史資料センター「山海関事件に対する欧米列強の論調概観」 レファレンスコード :A03023857000